〜頭痛について〜



1.>はじめに

 まず脳外科の外来を訪れる患者さんの症状として最も多い頭痛に関して話します。
 頭痛でお悩みの方々の心配は「頭の中に何が問題があるのではないか、例えば脳腫瘍ができたり、脳に出血したりしているのではないか」というのが正直なところではないかと思います。しかし、頭痛はいろいろな原因で起こるひとつの症状であるにすぎず、実際に脳外科の外来を訪れる方々の症状の原因のほとんどが、以下に述べる「筋緊張性頭痛」や「片頭痛」によるもので、患者さんが心配するように頭の中に何か異常があって起こるものは少なく、むしろ頭の外の筋肉や血管に原因があるものです。

2.筋緊張性頭痛

 日常見られる頭痛の原因の大半は持続的な筋収縮に伴う、この「筋緊張性頭痛」です。その症状の性質としては多くは両側性、持続性で、鈍く、痛みというよりはむしろ「重いものをかぶったような、押されるような感じ」と表現されます。
 原因は精神的緊張による頸部や項(うなじ)の筋肉の長時間の持続的な収縮による、筋肉の凝りによる痛みと説明されています。人間の頸部や項の筋肉はその重い頭部を直立し、支えるために非常に発達していますので、この筋肉に痛みが生じますと頭部に放散し、頭痛として感じられるわけです。生活のストレスに対する身体反応として頭痛という症状が起こってくるという点で、一種の典型的な「心身症」と言えます。
 治療は薬物療法としては鎮痛剤や、緊張した筋肉をほぐす薬である中枢性筋弛緩薬、精神安定剤の経口投与などが行われますが、本来は非常に心身症的要素の強い症状ですので、これらの薬を内服しても、効果は一時的で、またすぐに痛くなってきます。まず、原因となるストレスを回避する事が一番なのですが、本人の社会的状況によりそれが不可能な場合がほとんどでしょう。それができない以上はなんらかの方法、例えば趣味などによりこれらのストレスを解消することが良いと思われます。他に原因と思われる不自然な姿勢を直す事、軽い首や肩の体操により首、肩、背中の筋肉をストレッチさせ、ほぐすことなどです。一方、飲酒は筋肉の血行を改善し、また筋肉を弛緩させますので、この型の頭痛の症状改善には有効なのですが、逆にそのため飲酒量が増加し、いわゆるアルコール中毒(アルコール依存症)に陥ることがあり、勧められる方法ではありません。

3.片頭痛

 主として頭皮などに分布する頭蓋外の動脈の発作的な拡張による痛みで、多くは脈拍に一致したズキズキとした拍動性の痛みです。いわゆる「頭痛もち」というものの一部がこれに含まれます。発作性で、約半数以上に家族性(遺伝性)があります。
 典型的なものではチカチカしたものが見える、眼が見えにくいなどの視力障害や、まれに手足の麻痺などの神経学的脱落症状を伴う前兆を示します(古典的片頭痛)。しかし、これらの神経学的脱落症状を伴わないものが最も一般的です(普通型片頭痛)。
 原因はストレスや疲労、寝不足などの誘因により、血管の径などを調節・支配している自律神経がマヒし、血管が正常な範囲を超えて太くなったため、脈拍に一致した痛みを生ずると説明されています。片頭痛の患者さんはこの自律神経系が過敏であると考えられており、これは多分に体質的なものです。一般に思春期頃の若年より始まり、徐々に頻度と程度が増し、高年で自然消失する傾向があります。
 治療についてですが、多くの場合に片頭痛の発作にはエルゴタミン製剤が有効です。しかし、すでに述べたように多分に体質的な要素がありますので、一時的に軽快しても頭痛発作は必ず繰り返します。したがってむしろ発作を抑え、コントロールして行く事の方が重要と思われます。つまり、まず先にあげましたストレス、疲労、寝不足などのうち自分の片頭痛発作の誘因となる事をなるべく避ける事です。もちろん全ての誘因を避ける事は不可能ですので、なんらかの前兆症状や頭痛症状の始まりなどにより「いつもの発作が来るな」とわかった際には、医師に処方してもらった前述のエルゴタミン製剤をサッサと内服してしまい、症状が強くならないうちに発作を抑え込んでしまうのが良い方法です。

4.その他の原因による頭痛

 最初に述べましたように頭痛自体がいろいろな原因で起こる一つの症状ですので、眼、鼻、耳、歯などの局所的疾患や、発熱、中毒などの全身疾患に伴い頭痛が起こることがあります。

5.危険な頭痛

 では、脳外科的な治療を要するような危険な頭痛とはどのようなものでしょうか。
 主に発症の仕方により二つに分けられます。突然起こる物としてはクモ膜下出血、脳内出血などの脳血管障害によるもの、もう一つは脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などの頭蓋内占拠性病変による慢性的かつ緩徐進行性のものです。

6.特に救急処置を要するもの

 この中でも特に救急処置を要するのは脳血管障害による頭痛です。これらの頭痛の程度は出血の程度によりいろいろですが、起こり方に関しては「何時何分何秒に起こった!」と表現できるほど突然に起こる事を特徴とします。
 クモ膜下出血の場合、原因のほとんどはもともと脳の血管に脳動脈瘤という破れやすい瘤(こぶ)があり、それが破裂する事により脳の表面に出血を起こしたものですので、放置しますと再度破裂する危険が極めて高く、開頭術等による脳動脈瘤の処置が必要です。脳内出血は多くの場合は高血圧が長年治療せずに放置された場合に脳の細動脈硬化が進み切れやすい血管が生じ、これがとうとう切れ脳内に出血を起こすものです。出血のため局所脳が破壊される事による神経症状(運動麻痺や言語障害など)のみならず、その量が多い場合正常脳を圧迫し生命に危険な状態を生じますので、脳神経外科医による救急処置が必要な場合があります。。

7.その予防

 ところでこれら脳血管障害による危険な頭痛はその原因が判明しておりますので、予防する事が可能です。脳内出血の場合は原因である高血圧を治療することです。現に最近高血圧のコントロールが良くなったためでしょうか、私が脳外科医になったばかりの頃に比較しますと典型的な「高血圧性脳内出血」は特に都会ではかなり少なくなってきております。一方のクモ膜下出血の場合は同じく原因である脳動脈瘤がいまだ破裂しない状態(未破裂脳動脈瘤)の状態で発見・処置する事です。脳動脈瘤の発見に関しては一昔は太い動脈にカテーテルという合成樹脂の管を入れ、脳の血管を直接造影せねばなりませんでした。患者さんにとっては比較的侵襲の多い肉体的に負担になる検査で、多くの場合入院の必要があります。一旦脳動脈瘤が破裂し、クモ膜下出血を起こすとその20%が病院に到着せずに死亡し、病院に到着したものの30%は初回出血とその合併症のため死亡する、つまり初回出血で44%(20+80*0.3)が死亡すると言う報告がありますので、未破裂脳動脈瘤の状態で発見・処置するのが最善なのですが、かと言ってつらい検査を受けてまで、自分がはたして持っているのかどうかわからない(人口の5%程度が持っていると言われていますので、むしろ持っていない可能性は高いのです)脳動脈瘤の検査を受ける気はしないのが実状でした。ところが最近は性能の良いMRI(磁気共鳴装置)や特殊なCT装置により非侵襲的に脳血管をかなり細かいレベルまで描出することが可能となりました。
 以下の危険因子がある人はお近くの脳神経外科施設に相談される事を勧めます。
  • 肉親にクモ膜下出血の既往がある(脳動脈瘤の発生は家族性が少なくありません)
  • いつにない頭痛が起こった(動脈瘤の大出血の前に小出血の見られる事があります)
  • 高血圧症



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